The Birthday Night by ぷらりん様 


「・・・トレーシーさんがああおっしゃっても、あなたは当然代わるわよね?」

決め付けるようにミンミンが聞く。

「そりゃもちろん代わるんだよな、なんたって彼の誕生日なんだから!」

ゴードンも断言するように言い、残る二人の兄たちもうなずいて同感の意を表した。


「ジョンは別に構わないって言ってるんだよ。いい歳して誕生日なんてどうでもいいって」

みんなに取り囲まれ詰め寄られていたアランは、うんざりとしながら言い返す。

「それにパパが言ってたこと、覚えてるだろう?
ローテーションはローテーションだ、って。
誕生日だからと言ってそれを変える理由にはならないってさ」

「だからアランから『代わる』って言えばいいんだよ!そしたらパパだって・・・」

「あのねぇゴードン。何度も説明しただろ、ジョン自身がいいって言ってるんだ。
本人がいいって言うんだから代わる必要なんかないんだよ」


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宇宙ステーションにいるジョンに、ゴードンが憤慨して通信してきた。


「なにを怒っているのかと思えば・・・」

ジョンは苦笑交じりに応える。

<<だってジョン、誕生日じゃないか。そんな時ぐらいみんなでお祝いしたいよ。
なのになんで5号にいてもいい、なんて言ったのさ!
そんなこと言わなきゃ、僕たちいくらでもアランを説得できたのに・・・!>>


ゴードンが定時連絡にかこつけて『お誕生日おめでとうコール』をしてこなければ
今日が自分の誕生日だということなんて気にもしなかったろう、とジョンは思った。
誕生日がきたからと言って、昨日までの自分とどこかが変わるわけではない。
強いて言えば、年齢が一つ上がるぐらいだ。
なのに今日と言う日を何故そんなに特別視しなきゃいけない?

このジョンの態度がゴードンを怒らせているのだ。
しかし、自分のそんな考えにゴードンがこんなにも腹を立てていることがジョンには理解できなかった。


<<なに言ってるんだい!君という人間が生まれてきた日なんだよ。
めでたくないわけないだろう!>>

ゴードンは本気で怒っていた。

「わかったわかった、悪かったよ。ありがとう。その気持ちは本当にうれしいよ」

なだめるようにジョンは言うが、ゴードンの機嫌は簡単に直りそうもなかった。


怒りのあまりゴードンは話す気も無くなってしまったのだろうか。
しばらくスピーカーは沈黙していた。

「ゴードン?そこにいるんだろう?」

訝しげにジョンは聞く。

<<・・・おばあちゃんとキラノからの伝言だよ。
今度帰ってきたときには誕生日のご馳走を用意しておくってさ>>

「へぇ、それは楽しみだな」

<<それとバージルが、懐かしいものを見つけたからコンテナに入れておいたって。
コンテナBに入ってる赤い包みを見てくれって>>

「コンテナB、ね。・・・なんだろう、ゴードンは中身を知ってるのか?」

<<聞いてないよ。自分で確かめたら。じゃあねっ>>

ゴードンにしては珍しく、ぶっきらぼうに通信を切ってしまった。


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「コンテナB・・・コンテナB・・・と」

一方的に通信を切られ、しばらく唖然としていたジョンだったが
気を取り直して倉庫へ行き、今回自分が運んできたコンテナ類のチェックを始めた。

「ああ、これか・・・」

目的のコンテナを見つけ中を見てみると、確かに言われたように赤い包みがはいっていた。
厚みはそれほどなく、ハードカバー本ほどの大きさだ。

包みを開けると、出てきたのは写真立てだった。
そこに挟まれた写真を見て、ジョンははっとする。


ろうそくの立ったケーキを前に幼い自分がいる。
そして、その後ろには遠い昔に亡くなった母を始め、家族全員(アランは母の胎内だ!)が写っていた。


包みにはバージルのメモが添えられていた。
『先日アルバムを整理していて見つけた。
君が三歳の時のバースディ・パーティの写真だ。そう、家族揃って祝った最後の誕生日のものだ。
今年は君は誕生日を5号で一人で過ごすことになりそうだから
せめて写真でだけでもみんなでお祝いできたら、と思うよ』

ジョンは、自分の誕生日なんて別に祝ってもらわなくても・・・
と言ったことがなんだか恥ずかしく思えてきた。


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何度か寝返りを打った後、やはりどうにも寝付けなく
ジョンはベッドから起き上がるとガウンを羽織り、天体観測ドームに向かった。

その時、サイドテーブルに飾っていたあの写真立てを無意識に取り上げていた。


天体観測ドームに設置された望遠鏡前の椅子に座る。
ここは心落ち着く場所。
いつだってここに座り星を眺めていれば、心の平穏を感じることができた。
今抱えているこのモヤモヤも、自然に晴れるはずだ。

しかし天体望遠鏡の電源を入れた後も、ジョンはぼんやりとしていた。


誕生日を祝ってくれるというみんなの気持ちを、どうして素直に受け入れなかったのだろう。
何故、そんなこと必要ない、などと思ってしまったのだろう。

急にゴードンの怒りやバージルの心遣いが、胸の内に温かく広がってきた。
今ならゴードンがあんなにも怒った理由が分かる気がする。


ああ・・・とジョンは思う。

今日、自分と同じく誕生日を迎えた人があの青く輝く地球上にどのぐらいいるのだろう。
みな、家族や愛する人たちに祝ってもらっているのだろうか。
誕生日という一日を幸せな気持ちで過ごしているだろうか。

全ての人が、今の自分のように温かい気持ちに包まれていると良いのだけれど・・・


いつしかジョンは深い眠りについていた。
安らかな寝息をたてるジョンを、傍らに置かれた写真立ての中から家族が見守っていた。




Feeling

LJ』のぷらりん様がイラスト『The Birthday Night』に素晴らしいSSをつけてくださいました。

そうかぁ、だからあの写真があそこにあったのかぁ…(自分で描いといて…)
そういうわけで、ジョンはお誕生日なのに家に帰らなかったわけね…(だから、自分で描いといてっ…!! T_T)
あの不可解なイラストの背景が驚くほどすっきり納得できました。
誕生日のジョンを想うミンミンを含めた兄弟達。でも、やっぱり甘えちゃうアラン。
そして気持ちが暖かくなるラストシーン。

ぷらりん様、心暖まるSSをありがとうございました。


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