宇宙行く船 ―そらゆくふね― 〜Another version  Under the leadership of John 〜 by hikako様 


5.
「そろそろ、見えて来るはずだ」
「見えた!あれだ」
アランはスクリーンの一角を指差した。
そこには、見慣れたISSの姿が映っていたが、ズヴェズダの後方部分は無惨にも破壊されていた。
「ひどいな、組立区画がメチャクチャじゃないか」
アランは驚きを隠せないようだった。
「まずいな。かなり、高度が落ちてる」
ジョンは冷静に現状を分析した。
「ザーリャの機能がまだ回復してないんだ」
「仕方ない、3号のスラスターで高度を上げよう」
ジョンは二人に告げた。
「わかった」
「じゃあ、打ち合わせどおりに」
「了解」
三人はそれぞれの分担に取り掛かった。

「こちら、国際救助隊です。応答願います、聞こえますか?」
ユーリはISS内の乗員に呼びかけた。
「はい、聞こえます」
「サンダーバード3号が到着しました。今からそちらへ向かいます」
「よかった!」
乗員たちの安堵した様子が伝わって来た。
「状況はどうですか?」
「二酸化炭素濃度がかなり上がって来ています」
「ケガをされた方は?」
「それが、呼びかけても応答がなくて・・・」
「わかりました。貴方がたは宇宙服を着てエアロック内で待機していて下さい。
まず、そちらにドッキングしてスラスター噴射で高度を上げます」

アランは慎重に3号をISSにドッキングさせるとスラスターを噴射した。
ISSは徐々に高度を上げて行った。
「よし、高度400kmに達した」
ユーリが告げた。
「次はエア・ロックの側に移動だ」
「了解」
3号はドッキングを解除すると、ユニティのエアロックのすぐ近くに移動した。
「準備は出来たか?ジョン」
アランはジョンに呼び掛けた。
「ああ」
ジョンは宇宙服を着てエア・ロック内で待機していた。
「外部ドアを開けるぞ」
「OK」
ジョンは3号から宇宙空間へと飛び出した。


6.
ユニティのエア・ロックに到着すると、ジョンは乗員に無線で連絡した。
「こちら、国際救助隊です。エア・ロックの外部ドアを開けてください」
「わかりました」
エア・ロックのドアがゆっくり開いくと、ジョンはユニティの内部に入った。
ドアのすぐ内側に二人の乗員がいた。
二人とも消耗しているようだったが、意識はしっかりしていた。
「大丈夫ですか?」
「はい」
「すぐそこに我々の宇宙船がいます。そちらに移って下さい。僕は負傷者の救出に向かいます」
「わかりました」

一人がもう一人を促し、二人の乗員はユニティの外に出た。
ジョンは万一のことを考え、外部ドアから二人の姿を追った。
程なく、二人は無事3号に辿り着いた。
「よし、アラン。二人とも3号のエア・ロックに入った。外部ドアを閉めろ」
「了解」
「後は頼んだぞ。僕は負傷者の救出に向かう」
「気をつけろよ」

ジョンはユニティのエア・ロックの外部ドアを閉めた。
かつて、ISSに滞在したことのある彼は、操作の仕方を知っている。
「ISSの滞在経験がこんなところで役に立つとは思わなかったな」
ジョンは内部ドアを開けながら、ひとりごちた。
彼はユニティの中に入り、ザーリャを通り抜け、ズヴェズダへと急いだ。

「聞こえるか、ユーリ?」
「ああ。今、どこにいる?」
「ズヴェズダのドアの前。やはり、開かない」
「僕もシステムにアクセスして、いじってみたけど、ダメだった」
「ハッキングしたのか?」
「人聞きの悪いこと言うなよ。ちゃんとパスワードを入れたよ」
「NASAが教えてくれたのか」
「まさか。知ってたパスワードをいくつか試してみたら、生きてるのがあったんだよ」
「それをハッキングって言うんだよ」
ジョンは呆れたように言った。
「まあ、非常時だから大目に見るけど」

冗談を言っている場合ではないが、緊張をほぐすことも、このような場面では必要なのだ。

「やはり、焼き切るしかないようだな」
「わかった」
「今から作業に取り掛かる。
通信は開いたままにしとくから、僕が負傷者を救出したら、すぐ3号に連絡してくれ」
「了解」

ジョンは用意して来たレーザー切断器でドアを焼き切り始めた。
十数分後、何とかドアを焼き切ったジョンは居住区画の中に足を踏み入れた。
居住区の内部は機材や壊れた機器類の破片が散乱していた。
「国際救助隊です、救助に来ました!」
ジョンは叫んだ。
その声に答えるように、微かな呻き声が聞こえた。
かなり弱っているらしい。
ジョンは声がした方に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
彼はぐったりと壁にもたれているケガ人を助け起こした。
「立てますか?」
「何とか・・・」
ジョンは彼に肩を貸して立ち上がらせると、今来た道を引き返して行った。

「アラン、ジョンが負傷者を救出した」
ユーリから3号に連絡が入った。
「今、ユニティのエア・ロックにいる。3号のエア・ロックの外部ドアを開けて、待機しててくれ」
「了解」

ジョンは負傷した三人目の乗員に宇宙服を着せると、エア・ロックの外部ドアを開けた。
「いいですか?行きますよ」
ジョンは彼の身体を支えると、宇宙空間に飛び出し3号へと向かった。

無事、3号のエア・ロックに入ると、ジョンは安堵の息をついた。
外部ドアを閉めようとした時、ザーリャのスラスターが噴射するのが見えた。
「ようやく、機能が回復したようだな」
ジョンは呟いた。


7.
負傷した乗員の応急手当をし、ベッドに寝かせると、ジョンはコックピットに戻った。
「よかった、上手くいって」
「ああ」
「けれど、これからどうしたらいい?」
「そうだな」

救出したISSの乗員をどうやって地球に連れて行くのか?
特にケガをした乗員は早急に医師の診察を受けないといけないだろう。
ジョンとアランが考え込んだ時、ユーリから連絡が入った。
「NASAの救援機が間もなく到着する。ドッキングして乗員を引き渡してくれ」
「迎えが来るんだ」
アランはほっとした。

それから30分後、到着したNASAの救援機に3名の乗員を無事送り届けた。
「乗員三名のNASAへの引渡し完了、これから5号に戻る」
ジョンは本部に連絡した。
「了解、おつかれさま」
ユーリは微笑んだ。
「よかったよ、上手くいって」
「ああ、本当に」
「5号で休憩してから帰っておいでよ」
「そうするか、サンドイッチもまだ食べてないし」
ジョンは笑顔で言った。
「何だか、急にお腹が空いて来たよ」
アランが続けた。
「アランもお疲れさま」
労いの声を掛けられ、アランは照れたように笑った。
「この三人で仕事をしたのって初めてだよね」
「そう言えばそうだな」
「すごく緊張したけど、今は達成感でいっぱいだよ」
「ああ、本当に」
三人の兄弟は救助成功の喜びを分かち合った。


8.
「結局、新しい居住モジュールの打ち上げの予定を早めるらしいよ。
それまではズヴェズダを修理して使うんだって」
ジョンとユーリはラウンジのテラスで風に吹かれながら話をしていた。

あれから一週間が過ぎようとしていた。
ISSの事故は世界中が知るところとなり、NASA及び関係各国の今後の動向に注目が集まっていた。

「それはそうだろうね、ISSを放棄する訳には行かないだろう」
ユーリが応じた。
「そう、あれは宇宙開発の大切な足掛かりだしね」
「今度のことで宇宙開発に支障が出るかもと思ったけど大丈夫のようだね」
「人類はすでに宇宙に踏み出した。もう後戻りは出来ないのさ」

「あの時は、ありがとう」
「え?」
「出ると言ってくれて・・・内心どうしようと思ってたんだよ」
「当たり前のことじゃないか」
「本当のこと言うと、君が作業してる間は心配でたまらなかった・・・
でも、君なら上手くやれると信じてたから」
そんな素振りは全然見せなかったが、ユーリもまた不安だったのかとジョンは思った。
「皆で力を合わせたから出来たんだよ」
ジョンは晴れやかな笑顔を見せた。
それにつられるように、ユーリも微笑んだ。

「ジョン、ユーリ、お茶にしようよ。おばあちゃんのケーキが焼けたよ」
ゴードンが声を掛けた。
「ああ」
「今、行くよ」

杖を手にゆっくりと歩き出すユーリを見ながらジョンは思った。
誰でも気軽に宇宙に行ける、そんな日がいつか来るといい・・・と。



※用語解説はファースト版『宇宙ゆく船』の巻末をご覧ください。 → Go!



Feeling

hikako様がファースト版『宇宙ゆく船』に続いて、お色直し版を送ってくださいました。
今回は全編、ジョンが主導しているのです!

…ああ、もう感激の一言…。(感涙)
ジョンだ、ジョンが活躍してる…、とpomは本当にモニター前でうるうる状態でした。
映像を見て常々、宇宙の救助活動という場ではジョンが存在感を示してくれたら…
と切望していたので本当に狂喜乱舞です。

hikako様、心行くまでジョンの活躍を堪能できるSSをありがとうございました。


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