Time of Treasure
 …の続き… ^_^;

ジョンが教えたポーカーは場にオープンにされたカードを
手札と組み合わせて勝負をするフロップゲームだった。
役さえわかればルールはさして難しくはない。
最初はお情けで勝たせてもらっていたゴードンとアランも、
ゲームに慣れてくるにしたがって次第に出入りが大きくなっていった。

特にアランだ。
何度目かの勝負でゴードンがなけなしのM&Mをさらっていくのを見て、
アランはカードを放り投げた。
「やっぱり運じゃないか!こんなのもうやめた!」

ゴードンはアランの言葉を否定できないでいた。
今のゲームなど、アランの手持ちのエースのペアに
ゴードンが5と3のツーペアで勝ったのだから、なおさらだ。

そのとき、ジョンがぽつりと言った。
「確かにカードは運だ」
アランはむっつりと壁の方を向いている。
ジョンは舞散ったカードに手を伸ばした。
「アラン、ポーカーはカードで勝つんじゃない。相手を読むんだよ。
例えば、君は手がいいと場のカードと手札を何度も見る癖がある。
こうして相手を探って、自分の手持ちで勝てるゲームかどうか、早い段階で見極めるんだ」
「じゃあ、勝てる方法なわけじゃないんじゃん」
ジョンの言葉にアランが半べそをかきながら叫ぶ。

しばらく黙っていたジョンは半分に分けたカードを両手でバラッと合わせた。
「一番大切なことはね、アラン。全てのゲームに勝とうとしないことだよ」
ジョンの言葉にゴードンは顔をあげた。
「どう頑張っても勝てないゲームは必ずある。
でもダメージを少なくすることはできる。そして勝機も必ず来る」
カードに視線を落としたまま、ジョンは言った。
「その時に勝てる余力のあった者が最後に残るんだ」


ゴードンは目の前の光景を見つめた。
…勝てるときは来る…、…勝てる力のある奴が残る…。
…最後に残るのは…この僕だ。


ゴードンの視線の先で、アランが遠慮がちにジョン達の方に振り向いた。
ジョンがカードを切る手を休めて手招きすると、アランはゆっくりと場の方に向きなおった。
ジョンがアランに耳打ちし、アランがちらりとゴードンの方を見る。
妙な予感に顔をしかめるゴードンをよそに、ジョンはカードを配りはじめた。

――――――――――――――――――――


「これって勝ち逃げじゃないのか…?」
ゴードンはアランの前に山と積まれたチョコを見ながらため息をついた。
あれから後のゲームですり続けたゴードンに対して、アランは着実にポイントを上げていった。
そして当の本人は今、その場でクッションを枕にして眠り込んでいる。
そんなアランにジョンは毛布を持ってきた。
「大目に見てやれよ。昨日はほとんど寝てなかったみたいだから」

コーラのカップを弄びながらゴードンは視線を泳がせた。
「一月前からヘンだったって…」
「今、考えてみると夏からその兆候はあったな。夏休みにしては彼女の付き合いが悪そうだったし」
ゴードンはアランを横目で見てため息をついた。
「…言えばいいんだよ、そう。そしたら放っときなんかしなかった…」

ピザの箱を重ねていたジョンが束の間、手を止めた。
「言ったろ、ゴードン。全てのゲームに勝つ必要はないんだ。君は君で抱えているものがある」
「でも…」
「アランの傍にいるのは君だけじゃない。今ここで気付けば十分だ」
ジョンはややあってぽつりと言った。
「君はこれからのびるんだよ。無茶したらダメだ」
「そんなの、わからないじゃないか」
「僕も君の歳に競技をしてたよ。もっとも君のレベルとは比べものにはならないけどね」


そうだった、とゴードンは思った。
ジョンはミドルスクールでピンチヒッターで借り出されて以来の陸上の選手だ。
ハードル競技では州大会レベルの実力の持ち主でもある。
だが、最近になって彼は競技に出ることをやめてしまった。


ゴードンは自分の持っていたコーラのカップをジョンの集めたもののそばに置いた。
「ジョン、君は?君が残ろうとしているゲームは…」
ゴードンのカップをとったジョンは手の中のカップを見たあと、それを静かに袋に入れた。
「…さあ。まだわからない」

ゴミ袋の口をしばって、ジョンは立ち上がった。
「君は明日はオフ?」
ゴードンがうなずくと、ジョンは伸びをした。
「後は明日でいいな。君のトレーニングがないなら朝食は遅目にしよう」
ゴードンは頷きながらアランの方をちらりと見た。
「目を覚ますまでそこで寝かしとけ」
「わかってるよ」
ジョンの言葉にゴードンは当然だろうという顔をした。
わざわざ起こして、起き抜けの不機嫌なアランを部屋までつれていく気など毛頭ない。

ジョンはゴードンにお休みを言って部屋から出ていこうとしたが、戸口で立ち止まった。
「ゴードン」
「なに?」
「カードがよかったら、今度は頭でもかいてみるんだな」
「は?」
「君の癖だよ。手札が揃うと動きが止まる」
狐に摘まれたようなゴードンを残して、ジョンは廊下に出ていった。


…そういうことか。
ゴードンは座り込むとアランの前の山からチョコを取って口に放り込んだ。
相手を読むと勝てるわけだ。少しは気が晴れたか、アラン…。

ぼんやりと庭の方をを眺めていたゴードンの傍らで、
つけっ放しにしていたテレビから唐突に音楽が流れた。
ペイパーピューの合間のニュース番組だ。
画面に今日の日付が踊り、キャスターが話し始めた。
ハロウィンを明々後日に控えた10月最後の土曜日、
大賑わいのショッピングモールのせいで、付近に猛烈な交通渋滞が起こったらしい。

平和だね…。
ゴードンはぼんやりと思った。
そうそう、うちはママがいなかったから自分達で準備をすると、
決まってこんな風に土壇場になってバタバタしてたよね。
おまけにこういうときに重なって…。
ゴードンは動きを止めた。


…こういうときに重なって誕生日の準備もしなくちゃならなかった…、
…ジョンの…。


ゴードンは玄関の方を振り返った。
ジョン宛ての封筒のアドレスシール、そういえばバージルのお気に入りの絵柄だった。
スコットがわざわざ電話をしてきたのも…。

ゴードンの心に複雑な思いが沸き上がった。
「…言えばいいんだよ。そしたら…」
そう言いかけたとき、ふと心にジョンの言葉が蘇った…。


ゴードンは立ち上がった。そして、できるかぎり大きく伸びをした。
足元ではアランが毛布を抱えて丸くなっている。
ゴードンはふっと息を吐いた。
今日はもう寝よう。後のことは明日でいい…。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



「…で、今年は忘れずに祝えたわけだ」
涼しい顔でアランが言った。


今日はジョンの誕生日だ。
本当なら今頃、5号にいるはずだった。アランが体調を崩したからだ。
だが、メンテナンスでブレインズを送ることもあって、スコットが一時的に代わることになった。

あっけらかんとしたアランの台詞にゴードンは鼻をならした。
「あの時は君だってセシルのことでいっぱいいっぱいだったじゃないか」
「僕も若かったからね。それに僕は彼の誕生日だってことを覚えてたよ。
でも、どうせ父さんが帰ってきたらレストランにでも行くだろうと思ったんだ。
事実、そうだったじゃない」

ゴードンはあんぐりと口を開けた。
まいったな、忘れてたのは自分だけか。

「君の罪悪感を軽くするために教えてあげるけど、
あの後、ジョンも僕らをだしにして楽しんだって言ってたよ」
アランの言葉にいっそう分が悪くなり、ゴードンは頭をかいた。


「そういえばアラン、風邪は?」
「もう治ったよ。僕は予定どおり交替するつもりでいたのに、おばあちゃんが大騒ぎするからさ」
そう言いながらアランはニッと笑った。
「でも、スコットが代わってくれたのはラッキーだったな。
ジョンに貸しを作ったわけじゃないから、5号に余計にいなくてすむ」

アランのちゃっかりした台詞にゴードンは天を仰いだ。
「今、ジョンがめずらしくワインぐらいで眠ってるのを幸運に思うんだな」
「帰ってきたばかりだからね。5号にいるときは気が付かないけど、
ここに帰ってくると、今までどんなに緊張してたかわかるんだよ」

アランの言葉に、ゴードンは脇によけたワインのボトルを見た。
ボディがしっかりとした渋目の赤だ。
本土に出掛けた帰りに、小さなワイナリーで兄弟達の好みを考えながら試飲して買ってきた。
決して高価な物ではないが、ジョンはワインを、そしてゴードンが奨めたことを
とても喜んでくれた。


ジョンは無口で控えめなのでクールな性格だと思われることが多い。
それは事実だ。
でも、そのクールさの下にハートウォームでお人好しな彼がいるのを、兄弟は皆、知っている。


「…でもさ、誕生日だって一言くらい言ったっていいじゃないか」
ふと口を突いて出た台詞にゴードンが口を尖らせると、
アランは眠っているジョンの前髪を軽く引っ張った。
「ま、口が重いのも、この兄貴の可愛いところだったりするからね」

子供のように眠る兄の上でクスッと笑いあって、弟二人は星明かりを後にした。




Note

1月です。
この時期、誕生日というのならジェフですよね。
でも、ジョンなんです。ジョンのバースデー企画なんです!(遅れた理由は明白…号泣!)
しかも絵描きにあるまじき長さの駄文…、スミマセン!


どうもpomは寝顔フェチのようです。
またしても、誕生日にジョンを寝こけさせてしまいました。^_^;

兄弟中、一番気配りの行き届くゴードンが
家族の誕生日を忘れるなどということは百歩ゆずってもないだろうとは思ったのですが、
彼がオリンピックに手が届くというほどのアスリートなら、
その重圧は計り知れないものだったでしょう。
それならこんなこともありえたかも、とこんなお話にしてしまいました。
(私自身はそんな重圧、これっぽっちもわかりませんが…。^_^;)

加えて彼にしては態度が悪いのも、思春期の男の子ならではということで。
ちなみにジョンの方はむっつりクール傾向。


正直、ジョンも少なからず重圧を感じていたのです。
今まで一時的に上二人がいないことはあったでしょうが、
バージルが家を離れた今回、初めてジョンは家の中で長兄の役割を担う立場になりました。
しかもこの時とばかりに、弟たち二人の様子がおかしくなります。

私の妄想するジョンは決して人間関係に器用なタイプではありません。
兄弟の長として弟たちのことに必死で、自分の誕生日にかまけている余裕など全くなかったのです。


というわけで、これは2017年10月28日土曜日のお話。
当サイトはジョン・マリオット版の設定を採用しているので、
ジョンの誕生日はハロウィン目前です。

またマリオットの設定では、
ジョンは学生時代にアスリートとして数々の賞をとったことになっています。
これを読んだとき、反射的に思い浮かんだ競技は陸上でした。
跳躍系なども考えましたが、最終的に落ち着いた種目は400メートルハードル。
100メートルなどの花形競技の陰で思い切り地味ですが、
実は短・中距離の中では800メートル走と並んで最も過酷といわれる競技です。
競技の特徴が実にジョンっぽい(?)というのもあって、一人で悦に入っているpomがここに…。


ちなみにこの2017年、スコットが21歳、バージルが18歳、
ジョン16歳、ゴードン13歳、アラン12歳。
ジェフが宇宙飛行士だったときのまま、彼らがテキサス州に住んでいるとしたら、
州標準の就学年齢の区切りは9月1日です。
ジョンはバージルと二歳、ゴードンと三歳違いですが、
ジョンだけ年度区切りの後の誕生日なので、学年ではバージルと三つ、ゴードンと二つ違い、
ジョンがシニアハイの10年生、
ゴードンとアランはそれぞれ、ミドルスクールの8年生と7年生になります。

でも、カリフォルニアやニューヨークなら区切りは12月なので、学年の違いは年齢通り。
さらにその地方の教育委員会によっても事情が異なるというのですから、
アメリカって国はまったく…。-_-;



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