Helples
 "Oh! my Johnny boy became the best-selling author!"

14th December, 2005

「まあ、私のジョニー・ボーイがベストセラー作家になるなんて!」
おばあちゃんのはずんだ声が聞こえてくる。
ジョンは成り行きに当惑しながらも、不思議な幸福感を感じていた。

ことの起こりは昼下がりに届いた一つの荷物だった。
今し方届いたと、ゴードンがニコニコしながらリビングにいたジョンに持っていた包みを差し出した。
色の淡いビニールの下に、鮮やかな柄のプレゼント・ラッピングが見て取れる。
ジョンの誕生日が二日前に過ぎたばかりだけに、明らかに『遅れて届いた誕生日プレゼント』だ。

差出人の名前を見たジョンは微かに顔をしかめた。
「スタンリー…」
これが仮にでも女性の名前だったら、ゴードンも部屋に持ってきてくれただろう。
だが、スタンリーがジョンの著書の編集者だということは兄弟全員、知っている。
隠し立てする理由も見つけられないまま、興味津々のゴードンを前に、
ジョンは包みを開封するはめになった。

中に入っていたのはニューヨーク・タイムスの日曜版についている、書評の薄い刷子だった。
その26ページ目のノンフィクションのベストセラー・ランキングに付箋が貼ってある。

第八位…。

ジョンは目をしばたかせた。
自分の著書が載っている。それに自分の名前も。

「…これ、ジョンの本じゃないか!」
ゴードンの声にリビングにいた全員が振り向いた。
「どうしたの、ゴードン?」
ソファに座っていたおばあちゃんが読んでいた本から目を上げると、
ゴードンはジョンの手から書評を取っておばあちゃんに手渡した。
「ジョンの本がベストセラーに入ってるんだ」
「すごいじゃない!どの本?」
横から覗きこんだティンティンに、ゴードンはさらに包みの中にあったジョンの著書を渡した。
「これだよ。ほら、ここ」
「ど・どれ?」
おばあちゃんとティンティンが書評に見入っているのを見て、通りかかったブレインズも足を止める。

そのとき、周囲の盛り上がりに気を取られていたジョンの肩をバージルがたたいた。
「まだ何か残ってるぞ」
バージルに促されてジョンは包みに視線を戻した。
包みの一番下に入っていたのは薄い冊子だった。紙の表紙の何の変哲もない簡易アルバムだ。
中にはいくつかの書店の売場を写した写真が入っている。
怪訝な表情でページをめくっていたジョンはハッとして目を見開いた。
最初から写真を見直してみる。間違いない、写っている売場にあるのは自分の本だ。
ある写真では平積みでかなりの部数が置いてある。別の写真ではレジの前に立て掛けてあった。
早くもニューヨークタイムスのランキングをスタンド型のPOPにして立てている写真まである。
そして、裏表紙の内側には走り書きのメッセージが…。

『自分の本を見直したか?良い誕生日を。 スタンリー』

ジョンは前髪をかきあげながらふうっと息をついた。どうやら冗談ではないらしい。
「すごいじゃないか、ジョン!君の本だろう?」
興奮気味に話し掛けるバージルに、ジョンは薄く微笑んだ。
「そうみたいだ。信じられないけど…っ!?」
突然、首にがしっと腕をまわされて、ジョンは驚いて息を飲んだ。
「もっと喜べ!君の書いた本なんだぞ!」
上からバージルの半ばからかうような、しかし確かに喜びを含んだ声が聞こえた。
さすがにスコットに対しては弟という立場上、控えめではあるが、
逆に兄となるジョン以下の弟達に対しては、バージルはボティコンタクトに遠慮がない。
そして、そうであるほど彼の喜びが大きいことを知っているだけに、
手荒い祝福を受けながらも、ジョンの顔は綻ばずにはいられなかった。

「ベストセラー作家、誕生!」
パーンという音とともにゴードンのはずんだ声がする。
ジョンの目の前にちらちらと紙吹雪が落ちてきた。この短時間でクラッカーを見つけてきたらしい。
「おやおや、バージル。ジョンを放してあげて」
おばあちゃんの声にさすがのバージルも腕を緩める。
ジョンが息をはずませながら身を起こすと、微笑みながら歩み寄ってきたおばあちゃんは
自分の背丈をはるかにこえる孫の頭を抱き寄せ、その額にキスをした。
「今夜はもう一度、お祝いよ。夕食は何がいい?」
おばあちゃんの問い掛けに、そこにいた全員がジョンの方を向いた。
どの顔も暖かく微笑んでいる。

不思議な気分だ。家族の話題の中心に自分がいる。
スコットでもバージルでも、ゴードンでもアランでもない、この自分が…。

ジョンははにかみながら、やや小さな声で答えた。
「じゃあ、ポークチョップ」
それを聞いたゴードンが大袈裟な表情で腕を広げた。
「お祝いなんだよ、ジョン!もっとこう、パーティー・メニューをオーダーしなきゃ。
オマール海老のグリルとか、フォアグラのステーキとか、シャンパンを付けてとか…」
「いい加減にしろ」
お約束のように肘でこづくバージルに、ゴードンは笑いながら舌を出してみせた。
おばあちゃんも笑いながら、もう一度、ジョンの額にキスをした。
「わかったわ。楽しみに待っててちょうだい」
それが合図だったかのように皆がジョンの周りを取り囲み、口々におめでとうと言っていく。

そんな彼等に微笑んで答えながら、ジョンは思った。
あとでスタンリーにお礼のメールを送らなきゃな…。




Note

…クリスマスではありません。お誕生日です。ジョンの。今頃。
生来の遅筆が災いして、とうとう2ヶ月も遅れてしまいました…。 T_T

まだドイツが東と西に分かれていた頃、東ドイツにマキシ・グナウクという器械体操の選手がいました。
彼女は良い演技ができても失敗してもいっさい表情を変えないことで有名だったのですが、
ある年の世界選手権で優勝が決まった時、大はしゃぎのコーチに抱きつかれた彼女が
少しだけニヤッと笑うのがテレビに映りました。
私のイメージするジョンもそんな感じです。
内面を表すことは言葉では勿論、態度でもあまり多くはないと考えています。
でも、兄弟達はそのかすかなサインを当然、見逃さずにいるんですけどね。

他方、弟とはいえゴードンやアランとはかなり雰囲気が違うので、本来、
ジョンはバージルにとってあれほどまでのボティコンタクトをとろうと思う相手ではありません。
ですが、彼はこれまでに、ジョンが弟達二人を優先し自分を押さえるのを、
子供のころからイヤというほど見てきました。
だから彼はある意味、いざ自分が中心になったときに、
その状況を大手を振って享受できないジョンが、兄としてはがゆいのです。
…とはいっても、その結果があれ?とは自分でも思うのですが…。-_-;

バージルとジョンの兄弟順におや?と思われた方。
当サイトはジョン三男の旧設定を踏襲していますので、ご了承ください。
加えてジョンの誕生日の設定は10月28日。というわけで、このお話は10月30日の出来事、ということになります。

ちなみに、Other Activitiesに『Celebrate You』がありますが、
この『Celebrate You Again』の構想の方が先に生まれました。
お誕生日に加えてベストセラーのお祝いで「Again」。
じゃ、本来のお誕生日は「Again」なしか、という安易な発想で、
あちらのイラストのタイトルが決まってしまったという裏話が…。

おばあちゃんが手にしているニューヨークタイムスの書評は
日曜版とともに配られる30ページあまりのタブロイド判です。
ベストセラー・ランキングはフィクション、ノンフィクション、それぞれハードカバー、ペーパーバックにわかれ、
全米の書店に加えて、百貨店やギフトショップ、ニューススタンドなどおよそ5万店に仲介している卸売り業者、
あわせて約4000拠点の販売結果から集計されているそうです。

また、SSに登場するジョンの本の編集者、スタンリー氏は『LJ』のぷらりんさんが創作されたキャラクターです。
私が彼に惚れ込み、恐れ多くもこの超つたないSSへの出演を依頼したところ、
大変、寛大なお返事をいただくことができました。
この場を借りて、御礼申し上げます。

ただ、いくらスタンリー氏が優秀な編集者だといっても、正直なところ、
ジョンの本はベストセラーリストに入るようなタイプのものではないと自分では思うのですが、
今回、ジョンのお誕生日にあたって何か楽しい雰囲気のものをと思って、
まいっか的にこれを描いてしまいました。

…でも、秘密組織の人間がこんな世の話題になるようなことをして大丈夫なんでしょうか。
ジョンどころかゴードンなんてオリンピックにまで出て、しかも金メダリストでしょ?
あ、でも彼の場合は救助隊どころかWASPにも入る前のことだから、一応、時効?
でも、アランはチャンピオン・レーサーで、しかも今も現役なんですよね?

…じゃ、いっか。ジョンがベストセラー作家になるくらい…。 ←をぃ…



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