クルージング by たっち様 


『なんて気持ちがいいんだ、やっぱり地球は最高だよ』
僕は潮風を思いっきり吸い込んだ。


久し振りにペネロープがトレーシー島へ遊びに来た。
暑い盛りなので、夕涼みがてらクルーザーで船上パーティーをすることになった。
パパは「たまには若い人だけで楽しむがいい」と、気を利かせてくれたので、参加するのは僕たち兄弟
(アランだけは残念ながら宇宙の彼方だが)、ブレインズ、ミンミン、そしてペネロープ。
20代の若者だけが船上に集まり、パパ達年長組に気兼ねすることなく騒げるので、
ゴードンなどは大喜びだった。
「今日は私が腕を振るうわ」と、ミンミンはキラノと下ごしらえを済ませた食材を船のキッチンに運び
大張り切りだ。
ブレインズは、「何か僕に手伝えることはないかい」と、キッチンに顔を出し、
ミンミンに煙たがられている。
バージルとゴードンは早速釣り糸を垂れている。
スコットとペネロープは甲板に出て、なにやら親しげに話し込んでいる。
2人の後姿はまるで恋人同士のようだ。

さて、僕はというと、ひとり船の舳先にやって来た。そして服を脱ぎ捨てた。
せめて地球にいる間だけは、この体に少しでも多くの太陽の光と風を浴びたいと思ったからだ。
遠くに見えるのは僕たちの楽園、トレーシー島。
振り返ると夕焼けが空を染めて、海の青との対比が美しい。
僕は今、みんなと一緒にこの船に乗り、この景色を満喫していることに心底幸せを感じた。

ふと気付くと、さっきよりみんなの声が賑やかになったらしい。
食器の触れ合う音も聞こえてくる。

「ジョン、どこなの?もうすぐパーティーが始まるわ」
ペネロープが僕を探している声が聞こえてきた。
『行かなくちゃ』と振り返った途端、
「まあ、どうしたの?その格好は?」
ペネロープが、目を丸くして僕を見つめている。
彼女の目線は僕の顔からゆっくりと下に降りていった。
僕は自分の姿を思い出し、心臓を槍で突かれたように硬直した。

『ペネロープに醜態を見せてしまった』
「水着までおはきになるなんて、用意のよろしいこと」なかば、呆れたように言う。
僕は自分の下半身に目をやり、心底ほっとした。
『そうだ、海に出るということで、別に泳ぐわけでもないのに、なぜかわくわくして、
ズボンのしたに海水パンツをはいてたんだ。ああ、下着じゃなくてよかったよ』
ため息をつく僕に、彼女は、
「さあ、早く行きましょう。みんな待っているわ」と、僕の腕をとり、歩き出す。
僕は脱ぎ捨てた服を拾う間もなく連れられ、水着姿のままで、みんなの前に出る羽目になった。
みんなはそれぞれ正装に近い格好をしているのに、僕だけ裸同然。

「どうしたんだよ、その格好」ゴードンは笑い転げている。
「ジョン、泳ぐの?」ミンミンもからかうように問う。
「いや、あの、ちょっと、日焼けでもしようと思ってね・・」僕は言い訳を考えた。
「もう夕方だよ」スコットが真面目な顔で言う。
「そんなに泳ぎたいなら、ひと泳ぎしてこいよ」バージルは笑いながら言うと、
ゴードンと共に僕を担ぎ上げ、甲板の手すりを越えて僕を海に放り込んだ。

『ああ、なんてことだ、まさかサメはいないだろうな』
やっとのことで海面から顔を出した僕を、ペネロープは冷たく光る青い瞳で見下ろしていた。




Feeling

MY ROOM THUNDERBIRDS』のたっち様がコラボレーションのイラストに、
もう一遍、SSを書いてくださいました。

夕暮れのプライベートクルージング、楽しそうに料理を作るミンミン達、
ゆっくりと釣り糸を垂れるバージルとゴードン、和やかに談笑するスコットとペネロープ。
彼等の間をゆったりと流れる時間がすごく素敵です。
で、舳先で思わず服を脱ぎ捨ててしまうジョンにクスッとしました。
あの冷静なジョンでも、たまに地球に帰ってきた時は大自然の情景に呑まれてしまうんですね。
それだけトレーシー島の夕暮れの情景が美しいということが、とてもよくわかります。

たっち様、爽やかなSSをありがとうございました。


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