石のはなし by hikako様 


※このお話にはhikako様のオリジナル・キャラクター、
 ジョンが救助活動で出会い、後に養女にしたリラちゃんが出てきます。


ある日の午後、アランは自分の部屋で鉱石標本のコレクションの手入れをしていた。
鉱石収集は彼の趣味のひとつだった。
ラウンジではなく、自分の部屋でやっているのは
彼の兄弟たちが彼の趣味にあまり理解を示さないからだ。
ゴードンなんか「そんな石ころなんか集めてどうするのさ?」と彼をからかう始末だ。
そういう訳で、彼はコレクションを人に見せることはあまりなかった。

標本を床に広げ、ひとつひとつ磨いていると、ふと視線を感じた。
開け放しているドアの所にリラが立っていた。彼女は床に広げている標本を興味深げに眺めていた。
「近くで見るかい?」
アランが声を掛けると、リラは部屋の中に入って来て、彼の隣に座った。

「これはみんな石なんだよ。でも、きれいだろう?いろいろな色があって」
リラは頷いた。
彼女は目を輝かせながら標本に見入った。
アランは淡いピンク色の石をリラの手の平に載せた。
「きれいだろう?ローズクオーツっていうんだよ」
「うん!」
リラは熱心にピンク色の石を眺めた。
「これも、なかなか面白いよ」
アランは乳白色の石を手に取った。
「ムーンストーンっていうんだけどね、こうすると・・・ほら!」
アランが石を傾けると、表面に青白い帯状の光が現れた。
「わあ!」
リラは歓声を上げた。
「これも、そうなんだよ」
アランは緑がかった濃い灰色の石を手に取って、同じように傾けて見せた。
蝶の羽を思わせる金とコバルトブルーの光の帯が現れた。
「すごく、きれい!」
「だろう」
アランは得意げに言った。
「どうして、こうなるの?」
「うーん、何て言ったらいいのかな?」

アランは考え込んだ。
こんな小さな子に理解させるには、どう説明したらいいだろうか?

「えーと、これは『シラー効果』と云うんだ。この石は2種類の層が交互に重なって出来てるんだ。
そこに光があたると、帯状の光が浮かび上がるんだよ」
アランは出来るだけ解りやすく説明したつもりだが、リラが理解したとは思えなかった。
「わかったかい?」
リラは小首を傾げていた。
「まだ、ちょっと難しかったね。リラが大きくなったら、もう1回説明しよう」
アランが苦笑いしながら言うと、リラも笑った。

「あっちは、何?」
リラは別の箱を指さした。
「それも石だよ。原石っていうんだよ」
「げんせき?」
「これを磨いてきれいにするんだ。ほら、これがリラが持ってる石の磨く前だよ」
アランはローズクオーツの原石を見せた。
それは少しピンクがかっているものの、ごつごつした不透明な塊だった。
リラは自分の手のひらの淡いピンクの石と見比べた。
「これがこうなるの?」
「そう、研磨っていって、機械で磨くんだよ」
リラはますます興味を持ったようで、熱心にふたつの石を見比べている。
その様子をアランは半ばあきれて見ていた。
「女の子なら、こんなのより宝石のほうがいいんじゃないかい?」

現にミンミンは彼のコレクションにはまったく興味を示さない。
彼女はカットされ美しいアクセサリーに仕立てられた
ルビーやサファイアといった宝石類が大のお気に入りなのだ。
彼にとっては、加工されていようがいまいが鉱物に変わりないのだが・・・

「ほうせきって?」
「ほら、ミンミンお姉ちゃんが身につけてるだろう?キラキラしてて綺麗なのを」
アランに言われて、リラはミンミンに見せてもらったことのある
髪飾りやネックレスを思い浮かべてみた。
「お姉ちゃんのもきれいだったけど、これもきれいだよ」

まだ幼い彼女には、付加価値は関係ないようだった。
『綺麗なものは綺麗』それで充分らしい。

「そうなんだよね、どっちもただの石なんだよね」

アランはリラを相手に真剣に話をしている自分がおかしかった。

「そうなんだけど、財産にもなれば、お守りにもなるんだ」
「おまもり?」
「石は色々な力を持ってるんだって」
「どんなの?」
「恋がかなうとか、お金がたまるとか、自信をつけてくれるとか・・・」
アランは現実的なことしか浮かんで来ない自分が少し情けなかった。

「そうだ、これリラにあげるよ」
アランは瑠璃色の石をリラの手に載せた。
「これはラピスラズリって云ってね、持ち主を危険から守るって言われてるんだよ」
「ありがとう」

アランはにっこり笑った姪を可愛く思った。
ミンミンが宝石なら、この子は原石だ。
原石は磨かれて、美しくなる・・・
誰がこの子を磨くんだろうか?

アランはふと、そんなことを思った。

まあ、何にしろ、将来が楽しみだ。




Feeling

hikako様がまたまた素晴らしいSSをプレゼントしてくださいました。

アランの趣味は色々説があるようですが、今回は「鉱石収集」をテーマにして、
お話を書いてくださいました。
アランは末っ子という設定から子供っぽい印象が強いのですが、
このアランは大人なのがとても新鮮です。
姪を見るアランの目、年長者の落ち着きがありますよね。

hikako様、暖かくて心安らいで読めるSSをありがとうございました。


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