Wishing you a merry Christmas



Wishing you a merry Christmas
 Ye who now will save the sufferer, shall yourselves find saving.

23rd December, 2015

「ずいぶん鮮明だね」
「け・結構、調整したんだ。光り物をサンプルに選んじゃったから」
コンソール前の椅子で、ブレインズは満足げに微笑んだ。
コントロールルームの床からは光輝くクリスマスツリーが立ち上がっている。
と言っても、本物ではない。ホログラムの映像だ。
5号の点検の休憩中に、ブレインズが見て欲しいものがあると床に小さな箱を置き、
そこから沸き立つ光景を説明なしに見せられたジョンは、ただ目を見張った。

「まだ試作の試作だからいろいろ安定しないけど、
それなりに形が分かるところまではたどり着いたよ」
ブレインズの声を聞きながら、気がつくとジョンは目の前で揺れる光に手を伸ばしていた。
立体物の中に埋め込まれるでもない不思議な見えかたで、自分の手がオーナメントに溶け込む。
「なるほど。確かにエッジは辛いな。
でも、投影物がもう少しまとまった形ならこれでもいけるんじゃないか?」
「そうかもしれないね。このレベルでいいんだったら、デコードにもそれほど手間取らないし」
「レートは?」
「900超…千弱ってところかな」
「今の波に乗せるのはちょっと厳しそうだな」
「うん、それはいずれね。今は映像だけだけど、行く行くはこれに音声を乗せて
リアルタイムの通信に使いたいと思ってるんだ」
ツリーを眺めながら顎を撫でていたブレインズがジョンに目をやった。
「こ・これ、次に交代になる時までここに置いてくから、見てくれない?
レーザーコミュニケーションの専門家の意見を聞きたいんだよ」

ブレインズの言葉に目をしばたかせたジョンは、肩をすくめるとふっと微笑んだ。
「わかった」

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


窓辺から振り返ったジョンの目に、床の真ん中にぽつんと置かれたホログラム投影機が映った。


あれが来る一週間ほど前、なんだか悪いね、と言いながらも嬉しそうに、
アランは島へ帰っていった。
そして定期点検が入り、その直後に持ち上がったのが子供病院との計画。
病院と島とのやりとりを中継し、計画実行が決まってからは、
いつになく島からの通信が多かった。

2時間ほど前に、子どもを乗せて2号が島に帰還した。
カモフラージュしている以上、島から直接、部外者に国際救助隊として通信することはない。
ゲストの子どもが無事に島に着いたと病院に伝えると、注意事項の念押しと
帰りの予定時間を確認して、弾んだ声で述べる感謝の言葉とともに通信は切れた。

正直なところ、病院の依頼をジェフが受けるとは思わなかった。
ペネロープも巻き込んでのリサーチで、施設拡張は虚偽ではなく、必要かつ急務であることも
確認できた。
だが、それと組織の秘匿性は別問題だ。
寄付を集めるために国際救助隊の知名度が使われる。
これが前例となって、救助要請に加えて今後、同じような依頼が増えるだろう。
基地に伝えるかどうかの最初の判断をするのは、自分とアランだ。
今後のために判断基準をはっきりさせておく必要がある…


ジョンは窓の外の星空に目を移した。


子どもの到着を連絡するようにと指示するジェフの背後には、色とりどりのモールが幾重にも
飾られていた。
そして、その通信を最後に連絡は入ってこない。
数時間前にペネロープも島に着いている。
ゲストが揃ったのだ。下はパーティで忙しい。


ジョンが窓辺にもたれかかると、静寂に包まれたコントロールルームに衣擦れの音が聞こえた。
ここでは機械の作動音以外、自分を除いて音を立てる者はいない。


あれからホログラム装置のスイッチを入れていない。
きらびやかに光の弾む無音のツリーを、どうしても眺める気になれなかった。
ブレインズが映像サンプルにツリーを選んだのはもちろん、クリスマスに一人、
5号にいる自分を気遣ってのことだ。
点検に来る時に山ほど運んできてくれたクリスマス用のディナーは、
おばあちゃんが自分のためだけに作ってくれた。
兄弟たちが通信の前後、ことあるごとに近況を報告しようとしていたのも、
準備の高揚感を共有しようという心遣いだ。
そして、歌の練習をさせられたと文句を言うアランに、
代わってやってもいいぞと軽口を叩いてみせたのは自分自身。

アランがあの性分なのは昔からよくわかっている。
一年のうち一番華やかなこの季節に居場所が逆だったとしたら、アランが文句を言う前に、
自分が落ち着かない。
だから、ローテーションがわかったときは、かえってほっとしたことを覚えている。

パーティに未練があるわけではない。どちらかといえば喧騒は苦手だ。
だが、この時期にあるはずの音がない、普段であれば気づきもしないギャップに、
こうも気を取られるとは…


ジョンはコツンとガラスに額を預けて薄く笑った。
いや、静かでよかったのだ。
せめて、地球がこの特別な一日を回りきるまでのあとわずかな時間、
新たな苦難を被る人がいませんように。


たわいもないはずのビープ音が、思いのほか大きく響いた。
ブレインズからの合図だ。これが鳴ったら島をモニターするようにと、
今朝、やけにこっそりと連絡してきた。
言われた通り、外部カメラの照準を島に合わせる。
家の屋根、プールサイドにいくつか、ぼんやりとした白い光が見えた。
イルミネーションでもセットしたのだろうか。
だが、それにしては光量が足りないし、数も増えなければ瞬きもしない。
ブレインズの意図を図りかねて、ジョンは首を傾げた。
まさか、あのブレインズが土壇場でミスなどするだろうか。
そう考えている間に、光はだんだんと白さを濃くしていった。
それは不規則な形をつくり、やがて家や椰子の木、岩肌を覆い尽くすように広がっていく…

「………雪だ……」

流石はテクニカル・ウィザード。
あるはずのない南国のホワイト・クリスマスを、皆、どんな表情で見ているだろう。


苦難を被りし者に救いを与えし者たちは、おのが身に恵みと祝福を…
…救いを得られただろうか…


ジョンはホログラム装置のスイッチを入れた。
静まり返ったコントロールルームに、軽いハム音とともに光のツリーが浮かび上がる。


それに混ざって空気を揺らしたのは、誰も聞く者のいない小さな呟き。

「…メリー・クリスマス」




Note

Thank you, Christine!
I was able to update to my website with the season because of you!!

えーと、皆様。
あまりにも久しぶりの更新すぎて、自分自身、言う言葉が見つからないのですが…
こうして更新(しかもオンタイム!)できたのはThe TRACY ISLAND CHRONICLES
が発行しているニュースフラッシュの編集者、Christineのおかげです。
半年前、インタビューを受けないか、とのお誘いを受け、
それならそれに合わせてサイトも更新します、と夢見心地で口走り。
イラストのお題を求めたら、5号にいるブレインズとジョン、二人がどんな風に過ごしているか
見てみたい、とかえってきました。
そして、描きあげられたら、ニュースフラッシュのクリスマス号に載せてくれる、とも。
例によって、聞いたとたんに情景がばふんっと。
まあ、その後も例によって有り得ないほどの時間をかけましたが、
奇跡的に今に至るわけでごさいます。

で、なんとか絵が描き上がり、さてお話をと思ったら、今度はあまりハッピーな展開に
なりませんでした。
以前にも増して国語力の欠如した支離滅裂な文章で申し訳ないですが、
書いているうちにテーマになったのは「音」です。
pomのジョンは基本、一人の方が好きです。
パーティなしのクリスマスを過ごしたことだってあるし、
誘われなければわざわざ自分から乗り込むこともしません。
その点、アランは真逆のタイプ。それを思えば、自分が5号にいることに何の抵抗もなかった…
…はずなのに。
お祭りには関わらなくても、地上にいれば季節の雰囲気を肌で感じるでしょう。
でも、宇宙空間に隔絶された5号の中では、それがありません。
兄弟たちはジョンのことを思って、忘れてないよ、と島から語りかけてくれる。
でも、その通信が切れるのと一緒に、兄弟たちの声の後ろで流れていた
明るく賑やかな季節の空気は、プッツリと、あるかないかわからないほど微かな
マシンの音に置き換わってしまいます。
で、例のごとくpomのジョンは家族や病院の通信に取り繕った返事をしつつ、
一人でぐじぐじとくすぶるわけでございます。
ちなみに、タイトル下の英文、お話終わり近くの「苦難を被りし云々」の一節は、
劇中に兄弟たちが合唱した聖歌『ウィンセスラスは良い王様』の歌詞の最後の部分を
もじったもの。これもある意味、音です。

もうお分かりと思いますが、このお話は「すばらしいクリスマスプレゼント
(原題「Give or Take a Milion」)」にひっかっけて設定しました。
あの回はクリスマスらしい楽しく和やかなストーリーなのですが、
よくよく考えてみると、結構、水の差しどころがいっぱいで。

そもそもあの病院の計画、本来ならジェフは断りそうなものだと思うのですが。
世間から見れば、国際救助隊が一病院のクリスマスイベントにボランティアした、
という事実のみが目に止まります。
今回は病院の寄付金集めのためという理由がありましたが、世の中誰しもが
そこから依頼可否のボーダーを推し量ってくれるとは思えません。
先のことを考えたら、ジェフなら寄付する方をえらんだのでは。
彼なら国際救助隊に紐付かないルートがいくらでもあるでしょうから。
入院している子どもを国際救助隊に招待する企画にしても、
すべての子どもに平等にチャンスがあるわけではありません。
コラルビルがどのような病状の子供のための病院かはわかりませんが、
島に来られるのは、少なくとも継続的なケアが不要で、経過を知らない人たちに
日をまたいで預けられて、往復数時間のフライトが問題ない子どもに限らます。
多分、このチャンスにエントリーできたのはほんの一握りだったでしょう。
もしそうであったなら、救助隊の装備はお世辞にも衛生的とは言えないけれど、それでも、
彼らが病院を訪問して、子どもたちみんなに夢を与えられた方が良かったんじゃ
ないんでしょうか。
しかも、このお話、全編通して救助を要する事態は何もなく、唯一の懸案の泥棒騒ぎは、
犯人たちの自滅で誰の手もわずらわせずに収束し、
じゃあ国際救助隊が何をしていたかといえば、総出でパーティの準備…

…とまあ、言いたいことを並べましたが。
今回の件はね、クリスマスにジョンを一人ぼっちで宇宙に缶詰めにすることに、
みんな、少なからず罪悪感があったんですよ。
だから、なんとかしてフォローしよう、それもジョンに気を遣わせないようにさりげなく、
と周りも苦労したんです。
来年は、もしかしたらローテーションを変えることを誰かが提案してくれるかもしれません。
でもね、それがなければ多分、この先もこの時期はジョンが缶詰めになるでしょう。
そして、彼が三十路になる頃に、こういったシーズンイベントの過ごし方も
何がしかの形に落ち着いてくるかもしれませんね。

まあ、つまるところはクリスマスに一人ぼっちの「不憫なジョン」に萌える、
悪魔なpomなんですが… ^_^;



Back