Starry Night
 I want to be as they are, now and in future.

19th November, 2006

静寂の中に、靴が砂利を踏みしめる微かな音がした。
トレーシー島の高みに立ったジョンは一つ息をつくと、
視界を覆いつくすような星空を静かに見上げた。


ここに来るのは久しぶりだ。
ジョンにとってここは文字通り、星と一体になれる場所だった。
5号のアストロドームは地上では見ることのできない星空を供してくれる。
だが、地球の厚い大気があって尚、遮る人工物のないここは
星々の存在を全身で感じることができた。

時刻は真夜中を裕にまわっている。
トレーシー邸もひっそりと寝静まり、周囲は見渡すかぎり明かりひとつ見えない。
そして漆黒の海に覆いかぶさるように、
地平線の彼方まで溢れんばかりの星空が広がっている。
その見るものを包みこむような無数の輝きの中で、ジョンは静かに佇んでいた。


幼い頃、夜になるたびにベッドを抜け出しては星空を眺めていた。
亡くなった母はあの空のどこかで自分を見ていると信じていたからだ。
もっともその後、星が流れると誰かが天に召されると聞いて、
光り輝くあの星は生死どちらの象徴なのか、真剣に悩みもしたが。

そしてそれ以来、星はジョンを捉えて放さなくなった。


ジョンは静かに天を仰いだ。
この地上で時を刻んでいる命、地を離れ天の頂きへ還っていった命、
その全て共に今日、また一つ歳を重ねた。

南へ向かって流れる天の川の中に、地平線近くで尚、ひときわ明るく南十字星が輝いている。
太古、マオリ族はあの示亟星を天の錨に準えた。
南を指し示すあの星々だけではない。
星は皆、存在の意味、そしてその存在を必要とするものを持っている。
自分もそうでありたい。
今も。そして、これからも。


目を閉じて一つ、深く息をつき、そしてゆっくりと目を開く。
小さく微笑んでジョンはきびすを返した。
さあ、帰ろう。家族の待つ家へ。




Note

遅れ馳せながらジョンのお誕生日イラストです。
当サイトのジョンの誕生日は10月28日なのですが、また今年も間に合いませんでした…。
(これのどこがお誕生日イラストなのかはおいといて… -_-;)


実は常々、本編の映像にトレーシー島が映るたびに、
秘密基地なら周囲に島影のない孤島だろうし、
あの島の天辺に登ったらさぞかし星がよく見えるだろうと思っていました。

映像によく出てくる島の遠景では画面中央やや右に、右向きにトレーシー邸が建っています。
トレーシー島は南半球にありますから、採光を考えればあの家は北向きのはず。
だとすればあの映像は右が北、左が南の、トレーシー島東側のショットになります。
片や、巷の資料に記されているトレーシー島の大きさは東西2キロ、南北4キロ。
島の遠景を完全に南北と仮定して比率で見ると、
画面中央やや左の頂上は海抜約1300メートルになる計算です。
(pom所有のPCモニタ調べ。^_^;)
その頂上に立ったとしたら地平線までの距離は約130キロ。
(直線距離で東京から下田のちょっと手前くらいです。)
仮に同じような高みのある島が周辺にあったとしても260キロ以上離れていれば、
人工光の干渉がほとんど無い星空を堪能できるわけです。


…なんていう妄想が暴走した結果、今回、どう考えてもそう簡単に登れるとは思えない場所へ、
ジョンをよりにもよって真夜中に行かせてしまいました。
行きはいいですが、問題は帰りです。
あの地形では、足を滑らせたらまず命はありません。
もしかしたら頂上までの遊歩道が作られている可能性もありますが、
文字通り限られた人しか滞在することのない島ですから、
よほど必要性がないかぎりそんな手間をかけているとも思えません。

というわけで、どうかジョンが無事に家まで辿り着いてくれますように…。(爆)



Back