The Anchor to the Ground
 "......Someone calling......, ......Virgil...saying......something........."

4th March, 2006

『Стани!』

…ああ、そうだ……セルビア語はスラヴ語系だった…。
…音が似ているとしたら…ロシア語………だとしたら…あれは……「止まれ」……?

ジョンは薄れゆく意識の中でぼんやりと考えた。

アルバニアとセルビア・モンテネグロ国境近くのイェゼルツェに雪崩災害の救助に来ていた。
広範囲な面発生の雪崩だったので、ジョンは周囲の被害の確認に出た。
大声が聞こえた後、胸に何かを突立てられるような衝撃を感じた。
誤射されたとわかったのは、雪に落ちた自分の血を見てからだ。
崩れるように倒れたその体の下で、雪の上に真っ赤な染みがゆっくりと広がって行く。
凍えるような寒さのせいだろう、不思議と痛みはなかった。

……声が聞こえる…………バージルだ……何か……言ってる………。

ジョンは目の前に投げ出された腕に視線を移した。
対応しようとしたが体が動かない。
リスト・コムから聞こえる声がだんだんと遠くなっていく。
いつの間にか寒さを感じなくなっていた。今はただ……そう、眠いだけだ―――。




Note

ごめんなさい!スミマセン!すみません!!ゴメンナサイ!!!
大丈夫ですよ、バージルが異変に気がついているし、弾丸も急所を外れています。
(ということにしておこう)

海外のファン・フィクションを読んでみると、救助の題材もシリアスかつ、
バラエティに富んでいます。
救助要請の原因がアラビア半島の原発のメルトダウン だったり、
東欧の謎の救助要請に応えていってみたら武装勢力に拉致されたり
(この二つは実写がベースでした)。
アフリカの紛争地帯の孤児院からの救助要請が来た時には、
政治問題には介入しない方針のジェフも子供達の命のために苦渋の決断をしますが、
案の定、2号諸共バージルが行方不明になってトレーシー島丸ごと大騒ぎ。

今回の舞台に設定したアルバニアとセルビア・モンテネグロの国境は、
モンテネグロ側にコソボ紛争で問題になったコソボ自治区がある地域です。
今回、雪崩が起こったのはアルバニア側ですが、その混乱に乗じての国境侵犯を
セルビア・モンテネグロ側が警戒した、という設定を考えました。
でも、実際に国境線が曖昧なことは決してないでしょうし、
かつての東西ドイツではないのですから、問答無用で撃つということもありえないと
思うので…例によっていつもの通り、設定に矛盾が噴出してしまいました。
きっと、彼の地の現状をご存知の方がお読みになったら、あまりの誤解に本当にお怒りに
なるかもしれません。申し訳ありません。

ただし、今回、題材にした地は少なくとも紛争地帯ではありませんが、
先の海外のファン・フィクションではないけれど、
もしこれがコソボ紛争の真只中でアルバニア本国も巻き込んでの物だったとしたら、
ジェフは出動要請を承諾したでしょうか。
起こったのは自然災害で巻き込まれたのは民間人です。
救助活動を一方の勢力への加勢とみなして要請を断るでしょうか。
それとも停戦を呼び掛けるなどして、救助を正当化する足場を築こうとするでしょうか。
いずれにせよ、この辺りに人命優先という彼等の思想の限界を感じます。

SSもどきの冒頭に書いたセルビア語はロシア語などで使われるキリル文字で表示しています。
もしご覧になって文字化けしていたら申し訳ありません。
発音は「スターニ」、ちなみにロシア語の止まれは『Стои(ストーイ)』。
双方ともとも英語の『stand』に当る言葉の二人称単数に対する命令形です。
(ということは直訳すると「立ってろ!」?)

そして彼等の活動する2026年、これから来るその年には
どうぞ、争いのない世界になっていますように―――。


リストコムの中のバージル、結構まじめに描いたので
よかったら見てやってください。 → Go !

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