ジョンは５号のモニターに映ったスコットの顔を声もなく見つめた。
油田の火災だった。隣接する施設の中に18人が閉じ込められて救助要請を受けた。
救助は成功した。
ただし、バージルの負傷という莫大な負の側面を残して。

「スコット、あれは事故だ。誰にも予測できなかった」
「わかってる」スコットは憔悴しきった表情でうなずいた。「また状況がわかったら連絡する」
「了解」

通信が切れて暗くなったモニターの前で、ジョンは小さくため息をついた。
気の毒なスコット。
バージルの無事が確認できるまで、彼は自分を責め続けるだろう。

あのとき、火災による度重なる爆発が、周辺の地盤にまで影響していた。
施設付近の地盤がゆるみ、そこから吹き出た気化した原油に火災の炎が引火して爆発が起こった。
非難誘導をしていたバージルがそれに巻き込まれたのだ。

ジョンは視線を落とした。
周辺状況をモニターして情報をアップデートし、救助方法の提案もした。
兄弟達が冷静に任務を遂行できるように、ここからできる限りのことはしたつもりだ。

…そう、ここから。

あらん限りの声で指示を叫ぶスコットと、
半狂乱のようにバージルの名を呼ぶゴードンとアラン、
そしてそれに続く爆発音…。

そのときジョンは目を見開き、コンソールの端を拳が白くなるまで握りしめることしかできなかった。
息苦しくなって気がついた。呼吸することすら忘れていた。

ジョンは立ち上がると、地球を見おろすワイドウインドウに向かった。
あの地球の上でバージルは一人、命の戦いを続けている。
たとえ何をすることもできなくても、そのそばにいられるのなら、
ここで気が狂いそうになりながら無力感にさいなまれているより、どれほどましかわからない。

「ごめん、バージル…何もできなくて…」

ジョンは虚空に散らばる無数の星を見上げた。
今、自分にできることはこれだけだ。
ジョンは掠れた声でつぶやいた。
「バージルを守って…。頼むよ、母さん…」

ジョンが今の仕事のスペースモニターと、実際に救助現場に赴く役回りを単純に比較したとしたら、
彼は間違いなく前者を選ぶと私は思います。
情報を分析して何らかの方向性を出すといった知的作業を彼は好みますし、
兄弟中、最も適した資質を持っているという自負もあるでしょう。

まぁ、それについてきた５号長期滞在というおまけは、
いくら天文学に興味があるとはいえ、手放しでは喜べないでしょうが。

その一方で、彼は現場に飛び込んで行く兄弟達の身を何よりも案じています。
情報を総合して自分が提案した人命を救うための手段が、
逆に兄弟達を危険にさらすことだってあるでしょう。
そんな時、冷静に任務遂行のための情報を供与しながらも、ジョンは内心、
腸をねじ切られるような思いをしているに違いありません。

ですから、最近のジョンの設定に、彼が救助現場に出られないことを
フラストレーションに感じているという記述を見かけますが、
（新世紀目前まで、私はこの設定を知りませんでした）
アクティブな行動をとりたいから救助に行きたいのではなくて、
兄弟が危険な場所で活動をしているのを空の上から眺めているくらいなら
自分もそこにいて少しでも手助けをしたい、という感覚だと私は思っています。

それから、あの５号のワイドウインドウの「INTERNATIONAL RESCUE」の文字。
今回はワイドウインドウに映る地球を描きたかったのでその点では一役買ってくれましたが、
あの存在、実は前から気になってました。
最初は見る人は５号の常駐者しかいないのに、どうして内向きに書いてあるんだろうって。

ここが国際救助隊なのを百も承知の人間に見せるより、
外部に分かるように掲げるべきじゃないかと思ったんですが、
よくよく考えてみたら国際救助隊は秘密組織だから、
救助隊以外の宇宙船が５号に接近するというのは通常、あってはならないことで、
とすれば常駐者に毎日、鏡文字を見せてストレスを倍増させるより、
内向きに設置する方が利にかなっているかも…と考えた次第。

…でも！じゃ、何であの文字をわざわざ窓に付けたの？
せっかくのワイドウインドウなのにあの文字のせいで、常駐者は外を見るのに
「INTERNATIONAL」と「RESCUE」の間から覗かなくちゃなりません。

強度に問題があって、梁が必要だったのか。
そして、それをただの梁にするよりは文字にした方が見た目が良いだろうという
設計者（＝ブレインズ？）の遊び心なのか。

…否。
それなら必要最低限のシンプルな梁にして、コントロールルームの閉鎖性を軽減する上でも、
常駐者のために視界を最大限に確保すべきでしょうっ！

…なぁんて、TVで５号を映す時の番組アピールなのは分かり切ってるんですけどね。